中央・青梅線12両化工事について

 以前の記事にて12両化工事の模様をお送りしましたが、あれから1年近く経った現在の状況等についてざっくりまとめておきます。

 ※私自身多忙なことと、新型コロナウイルス感染再拡大により現地取材がほぼできておりません。この為、工事の詳細な情報はございませんのでご了承ください。

各駅の工事進捗状況についてはReports for the future ~未来へのレポート~に詳細な解説がありますので、そちらを参照してください。

 

工事の計画

東京~立川

特急停車駅たる三鷹(現在はNEXのみ)、立川は特急車の入線が想定されていなかった副本線にも12両編成を停車させる必要があるので、結局のところ工事を行うようです。両駅共に機器室や分岐器を移設してスペースを捻出すると思われます。また、青梅線用であり行き止まり式でもある立川駅1番線をどのように延長するかは不明です。

また、分岐のある東小金井駅は分岐器を角度が急な物に交換することで必要なスペースを捻出する模様です。朝ラッシュ時交互発着の際に分岐器通過速度低下の影響があるかどうかは気になるところです。東小金井駅工事の当日は、三鷹国分寺の各駅で折り返せるという特性を生かした、折り返し運転が見られそうです。

上記以外の快速停車駅では、線形変更を伴う大きな工事は無い模様です。

日野~大月

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日野駅東京方(ホーム延伸前)

 立川の隣、日野駅はギリギリ12両分のスペースがあるように見えましたが、結局足りなかった様で工事が行われております。但し、分岐の移設は無い様ですので、比較的スムーズに工事が進行すると思われます。

構内に分岐器がある豊田では、立川同様に分岐器を移設する模様です。また、高尾駅は特急の臨時停車に備えて3・4番線の線路だけは既に12両対応となっておりますが、高尾駅橋上駅舎化計画が浮上していることから1・2番線も12両対応とする模様です。その他大月までの各駅はスペースが十分にありそうでしたが、実際にホームとして使用するにはギリギリな駅もあるそうです。

青梅線

牛浜駅では、線路切り替え工事の為に拝島~青梅にて一部列車運休がありました。航空写真を見る限り、西立川、東青梅等の線路切り替えが必要そうな駅がまだあるので、今後も一部運休が発生することが考えられます。

 また、東青梅駅単線化による処理能力低下に伴い、青梅駅河辺駅でホーム増設工事が行われております。この為、今後は河辺止まりの列車の増加・青梅での奥多摩方面との対面乗り換え化が予想されます。

その他

安全面について

 一部駅では、改修費用節約の為にATS-P地上子(直下地上子及びその近傍の地上子)を移設して出発信号機ギリギリまで接近できる仕様とする模様ですが、地上子設置位置ミスを恐れたのか、できる限り信号機ごと移設する方針のようです。

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ATS-P地上子の解説。

 上図のように、直下地上子(図中橙色の四角)を信号機に接近させ、直下地上子があった場所にパターン更新地上子を追設するという方針のようです。これにより、移設前のブレーキパターン(図の上段の青色の放物線)よりも信号に近い位置までのブレーキパターン(図の上段の赤色の放物線)を車上で演算させることができます。

 わざわざ地上子を追加する理由は、ブレーキ性能の良いE233系E353系等だけではなく、貨物列車や旧型車の入線を一応想定しておく必要があるからです。ATS-Pは地上子が停止信号や速度制限までの距離を車上へ送信し、そのデータを元に車上でブレーキパターンを決定するという方式です。直下地上子は対象の信号が停止現示ならば「即停止」という信号を送信します。

 

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赤丸部分が直下地上子。(閉塞信号機から30m手前)

 また、TASC設置により過走余裕分ホームを縮小する模様ですが、万一過走した際にドア誤開閉を防止するために車両側にホーム検知装置が追加されています。設置位置は京浜東北線E233系と同じ位置となっています。グリーン車対応改造が施工済みか否かを外見で見分ける際のポイントとなりそうです。とはいえ、既に多くの編成が改造を済ませているようですが…

 

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赤丸部分がホーム検知装置。右の編成は未装備。(2020年3月上旬撮影)

謎のT71編成

 以前の記事でお伝えした通り、予備車として松戸車両センターより209系が(計2本)転属してきたのですが、それでも予備車数に不安があったのか、E233系T71編成が新造されました。しかしながらトイレ設置もされていない模様ですので、12両化が完了次第転属の可能性がありますし、実際にいくつか転属先の候補があります。

 まず一番あり得る転属先は京葉線です。ご存じの方も多いと思いますが、京葉車両センターには209系500番台1本だけが10両固定編成のまま所属しています。1本だけ違う仕様とするのは整備・運用の都合上問題があるので、E233系に統一する可能性が高いと思います。

 次の候補は京浜東北線です。将来、同線はATOワンマン化を予定している模様ですが、まだ車齢の若いE233系の淘汰は考えられにくいので、E233系にATO対応工事を施すと思われます。工事の際はやはり予備車不足が考えられるので、その際はトイレの無いT71編成の出番かと思われます。工場の能力を考えると、ATO対応工事実施時期は中央線12両化完了後になると考えられるので、丁度よいと思います。但し、新たにD-ATCを追加する必要があるので、一番有り得るのはやはり京葉線と言えます。

ラッシュ時処理能力について

    中央線12両化についてよく話題となるのは「東京駅ラッシュ時間帯の処理能力低下」です。現時点でも1面2線で何とか捌いているという状況で、グリーン車の座席転換・車内清掃の時間など無いように見えますし、そもそもグリーン車2ドアなので乗降時間が延びることも考えられます。乗降口拡大や座席自動転換といった技を駆使しても、乗降時間の増加までは補いきれないことが予想されるので、ラッシュ時に新宿折り返し便ができる可能性は否定できません。配線上、11番線で折り返せば下り線と交差することなく折り返せます。

費用対効果について

    グリーン車増結関連諸費用はおよそ750億円となっておりますが、全て回収可能かどうかは疑問です。そもそも中央線快速は都心から比較的近い駅(荻窪・吉祥寺等)からの需要が相当多い路線です。いくら利用者が多くても、距離が短ければグリーン車需要とはなりえないでしょう。

    通勤時間帯には天国のようなものとなるかと思いきや、昨今の「新しい生活様式」普及に伴い通勤客自体が減少傾向にある上に、新型コロナウイルス流行に伴う景気悪化も相まってグリーン車需要の減少が考えられます。特に、「新しい生活様式」は一過性のものではないでしょうから、鉄道の需要自体が2019年までの水準に回復することは考えられにくいと思います。JRも一応民間企業ですから、「一度決定したからやる」というのではなく、経済の状況によりグリーン車導入延期等の柔軟な措置をとるべきと思います。

 

参考

 高尾駅周辺整備事業について|八王子市公式ホームページ

中央線の「グリーン車」導入 実は多い工事・運用の難所: 日本経済新聞